「星は何でも知っている」
....のかもしれないが、人間の方は星のことはほとんど何も知らない。「表題」で言っている「星」は我々の太陽のような自ら光を発する星(ものすごく遠くにある星)であるが、今回のお話は我々の身近にある星、火星や金星などの太陽系の中にある星(=惑星)の話しである。よくある入門書っぽい本には「まず、最初にガスがあって、それが渦巻になり固まって星になった」とか書いてあるが実際には細かいことは何にも解ってないのである。基本的に、最初に小さい星が一杯あって、それがお互いに 衝突して 合体しながら、徐々に大きくなっていった、ということは解っているけど、今ある太陽系の様な形態、つまり、地球くらいの大きさの惑星が太陽のそばを回っていて、木星のようなガスでできた巨大惑星が太陽から離れたところを回っていると言う構造が、どうしてできたか、とか、こういう風になるのは必然なのか、あるいは、単なる偶然なのかちっとも解ってないのである。(シューメーカーさんとレビーさんが見つけた彗星シューメーカー・レビー彗星が木星に激突した時、あれほど大騒ぎした一つの理由は、派手なイベントと言う他に、「惑星がどうやってできたか」という問いに答える絶好の機会だったからだ。つまり、木星はああやって衝突を繰り返しながら大きくなったと言うわけである。)
こんなことさえ解らなかった最大の理由は、研究手段が何もなかったからである。今の太陽系の様に真中に大きな星があってその回りを小さな星が(太陽に比べて、と言う意味。木星の直径は地球の直径の8倍くらいある。)ぐるぐる回っていると言うのは簡単に解くことができる。しかし、まだ、星ができていなくて太陽系全体に小さな星がちらばっていてお互いにお互いの重力で引き付けられながら運動している、と言う状態は全然、解けないのである。解けない理由は簡単。今の太陽系には太陽を入れて10個しか星がないが、その前の状態では数千個、いや、数万個、あるいはそれ以上の数の小さな星があった。それらの運動をきちっと解くなんてできはしない。
それでは、「どれくらいたくさんなら解けないか?」
1. 1000個
2. 10兆の10兆倍
3. 3個
「解り切ったクイズを出しているな。数千個で解けないと書いてあったばかりだから、2ではない。3のわけないから、1が答え」と思うかも知れないが、実は答えは3である。「うそつけ、太陽系の星の数(=10個)なら解けるといったじゃないか」と言うかも知れないが、太陽系が10個でも解けたのは太陽だけがずば抜けて大きくて、他の星が小さいから。その大きさの差があまりに大きいので惑星同士の及ぼし合う重力は無視できる。だから結局、太陽と惑星の間の重力による運動を解いているだけなので実際に解いているのは2個なのである。
「それでも、3個はおかしい。機動戦士ガンダム に出てきたラグランジェ・ポイントはどうなるんだ」とか突っ込んでくれる人がいると嬉しくて涙が出てしまうが、まあ、そういう人はいないだろう。「機動戦士ガンガム」というのは僕が高校生のころはやったアニメーションだが要するに、地球、月、そしてその回りを周回する宇宙ステーションの間で戦争をする話しである(こう書くと、身も蓋もないが、熱狂的なファンの方、ごめんなさい)。ただ、宇宙空間だと困ることが一つある。別に、「上下がないから」とかいう単純な理由ではなくて、お互いがお互いの回りをくるくる回っていたのでは拠点攻略戦ができない。戦争と言うのは、陣とり合戦だからせっかく占領したところが位置関係が変化していつのまにか敵のまっただ中、というのでは困るわけだ。「ガンダム」ではここがうまく解決されていて、地球と月からの重力がうまくつりあった点に宇宙ステーションがあって、月、地球、宇宙ステーションの位置関係が変わらないようになっている。地球、月、宇宙ステーションで星が3個。3個は解けないのにおかしいではないか!「宇宙ステーションは星ではない」という答えもあるが実際にはそうではなくて、やはり、月や地球に比べて宇宙ステーションが小さいと言うことが大事なのである。同じ大きさのものが3個、となると、ラグランジェ点とかは不安定になってしまってすぐに位置関係がグチャグチャになり、陣とり合戦ができなくなって戦争もない、というわけだ。(あ、この方が平和でいいかな?)
このグチャグチャはカオスと呼ばれている。カオスが生じると方程式自体に不確定性がなくても未来が予測できなくなってしまう。そして、このカオスは前世紀末にポアンカレと言う偉い数学者によってコンピュータなどない時代に既に発見されていたのである。どこで発見されたか?というとまさに今問題になっている3つの星の運動にみつかったのである。勿論、グチャグチャな動きをする星なんて実在しないから、ポアンカレがみつけたカオスは滅多に起きない病的な現象として無視されてしまった。だが、今ではカオスが生じる方が普通だと解っている。星の運動においてさえも。振り返るに、ニュートンが力学を作った時、大きな驚きを持って迎えられた理由の一つはニュートンの力学が地球の外の惑星の運動をきれいに記述した点にある。だが、ここで述べたように10個も星があって、円軌道(正確には楕円軌道)を描いて運動すると言うのは星の運動としてものすごく例外なのである。もし、ニュートンの力学が星の運航を説明できなかったらどうだろう?ニュートンの力学が正しくてもカオスが出現する(むしろ、一般的な)状況だったらコンピュータがない当時としては星の運航を予言できない。それでも、人々はニュートンの力学は熱狂をもって迎えられただろうか?力学が近代科学の父と呼ばれただろうか?ひょっとしたら、力学がそのような評価を得ることはなく、そして、現代科学の歩みが全然変わってしまったかも知れないと思うと興味深い。
ニュートンの力学は正しいけど、運動が複雑な場合の太陽系を描いた有名な短篇SFに「夜来る」というのがある。この世界では太陽が幾つもあるために人類が住んでいる惑星上はいつも昼のままで、1000年に一度だけ、夜がやってくると言う設定である。だが、これは実際には起きないであろう。同じ位の大きさの星が3つあっただけで運動は メチャクチャになる。太陽になるような星が7つも8つもあったら、その運動は目も当てられないほど無茶苦茶で周期的に1000年に一度、夜が来るなどと言うことはあり得ない。だから、「夜来ない」というのが正しいのだ。
まして、同じ位の大きさの小さな星がたくさんある(何万個もある)原始太陽系の振舞いなど予測不可能どころの話しではない。太陽系の起源がしれなかったのはこれも大きな原因なのである。それでは、太陽系の形成は永遠に謎のままなのかというと、そうでもなくなりつつある。その救世主はコンピュータ。人間の頭では3個で既に解けなくなるが、コンピュータなら数十個、数百個くらいなら計算できるのである。いま、多くの惑星科学者がコンピュータを使って小さい惑星が合体して10個の惑星になるかを計算し始めている。僕は専門の研究者でないが、そういうのに興味もあるから、今、手を出そうかどうか迷っているところである。そして、きっと、手を出すとなったらその計算のために一台、専用の計算機を買うだろう。そして、その候補の中にはパワーマックもしっかり入っている。いまや、マルチメディア用のコンピュータで物理の研究ができる時代になった。マルティメディアのハードウエアに対する要求はそれほどまでに苛酷なのである。いまや、科学計算用のコンピュータより、マルチメディア用の計算機の方が早かったりする時代なのだ。どうです、一つ、お宅のAVマックでノーベル賞でも狙ってみます?