ミツバチは集団で生きている生物です。一匹では生きて行くことが出来ません。また、<a href=jouou.html> 女王蜂</a>を除いた大部分の蜂、いわゆる働き蜂の寿命はわずか一ヵ月ほどであるにもかかわらず、集団としての「コロニー」の寿命は数年にも及び、個体は常に入れ替わっているにもかかわらず、コロニー全体のアイデンティティーは維持されるという不思議な存在でもあります。それはちょうど、我々の体が日々新陳代謝で細胞の入れ替えを行いながらも人間としての「個」を維持し続けるのにも匹敵します。ですから、ミツバチを語るときは一匹一匹について語るのではなく、集団としてのミツバチ、コロニーという形態そのものについて語るべきです。
<br>　ミツバチといえども蜂の一種です。そして、蜂には多くの種類があり、全ての蜂がミツバチの様に集団生活を送っているわけではありません。つまり、最初は「蜂」という虫がいてそのうちのごく一部が集団生活をするミツバチへと「進化」したと考えられます。当然、集団生活へと移行する前の蜂は集団生活に適した形をしていたわけではありませんから、その時の体の仕組を効率的に集団生活に適した機能へと転用する必要にせまられました。この「もともとは個体で生きていた蜂という生物が集団を組む必要に迫られたとき出来上がったもの」がミツバチであると言うことができるでしょう。
<br>　個体としての蜂を見た場合、すぐ目に止まるのはその驚異的な飛しょう力です。虫は一般に蝶にせよカブト虫にせよ飛ぶことができますが、ミツバチの飛行能力は天駆ける虫たちの中でも優れています。例えば、蜂は扇風機の風の中でも飛べると言われていますが（まあ、あまり強くなければ）、これは、人間のスケールで言えば暴風の中をヘリコプターで飛ぶようなものですす。ヘリコプターに比べたらずっと大きいジャンボジェットですら、乱気流の中でも激しく振動し、シートベルトをしめることを余儀なくされるのですから、ヘリコプターではひとたまりもありません。そのような強い飛ぶ力を持っているにも関わらず、一方で、蜂は花から花へとヘリコプターさえもかなわない曲芸飛行のような運動をする能力もまた保持しています。従って、蜂がもっている飛ぶという能力をいかにして集団として生活する際に有用なものに転用して行くかが、集団活動を始めた蜂達にとっての大きな課題となったのは利の当然でした。
<br>　さて、一匹ずつで生活していた生物が集団で生活する場合に最も大事になる新たな能力は何でしょうか？そう、コミュニケーションの能力です。といっても、ある日突然声が出せるようになるわけでもありません。蜂達はここで飛ぶ能力＝羽、を用いた言語を編み出しました。ミツバチの言語については、まだ良く解っていませんが、例えば、蜜のある場所までの距離をコード化して知らせることができます。蜜をとって戻ってきたミツバチは仲間達に蜜のありかを知らせなくてはいけません。そこで、彼等は特別な羽音を出して蜜のありかまでの距離を伝えるのです。羽音の長さが1.4秒ならば、蜜のありかまでの距離は約６4０メートル、1.５秒なら700メートルと言うわけです。この羽音の長さと蜜のありかまでの距離にはきれいな関数関係があり、
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（蜜までの距離[メートル]）＝　６７５×（羽音の長さ[秒]）−３２９
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 １９０m<a href="ftp://131.112.122.142/macbin22/beesnd1.bin">(sound-1:QT372K)</a> ６４０m<a href="ftp://131.112.122.142/macbin22/beesnd2.bin">(sound-2:QT457K)</a> １２４０m<a href="ftp://131.112.122.142/macbin22/beesnd3.bin">(sound-3:QT531K)</a>
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羽音で仲間に蜜までの距離を教えるミツバチ<a href="ftp://131.112.122.142/macbin22/vsbee6.bin">(video-6:QT1.2M)</a>
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と言う式が成り立ちます。但し、これは日本野性種のニホンミツバチの場合であり、現在主に養蜂に用いられている外来種であるセイヨウミツバチの場合には、ちょっと違った式が当てはまることが知られています。
<br>　羽音を用いた言語は蜜のありかを知らせるほかにも様々な機能を持っているらしいことが解ってきました。例えば、周りに蜜が無くなってしまった時など、巣を捨てて新しい住みかに引越しをしなければならないことがありますが、このときも羽音を用いたコミュニケーションを用いて巣からの離脱を伝えます。この羽音<a href="ftp://131.112.122.142/macbin22/vsbee7.bin">(video-7：QT3M)</a>は１０秒から３０秒、時には一分以上に渡るところが特徴的です。 この羽音で巣からの撤退が伝えられ脱出が始まるとわずか５分ほどで巣がもぬけの空になってしまう様はとても壮観なものです。
<br>　羽音は本来、コミュニケーションの為に用いられていたと思いますが、そのうち、他の機能にも転用されるようになりました。ミツバチにとっての大敵の一つがクマですが、おそらくこれを威嚇するために、蛇やドラゴンの威嚇音を模した「シューッ」という音<a href="ftp://131.112.122.142/macbin22/vsbee8.bin">(video-8:QT1.1M)</a>を出すのです。このとき、ミツバチはまるで一つの生き物の様に振る舞います。一匹一匹の蜂のだす羽音は小さいのですが、何百匹もの蜂たちが一斉に音を出す様はまるで一つの生き物のようです。それを見るとき我々は、ミツバチが単なる一匹一匹の蜂の集合体以上のもの、超個体とでも呼ぶべきものになっているのに気付きます。