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インタラクティブ・サイエンス・コラム・メイル
1997/11/06号 (不定期刊)
本日のお題:寄生というもの
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寄生、というと最初に思い浮かぶのは「寄生虫」だろう。サナダ虫、とか、十二指腸吸虫とかいう奴である。まあ、想像するだけでも気持ちが悪い。滅多にお目にかからなくなったとはいうものの、保育園に通っている2歳の息子など、毎年「ぎょう虫検査」なるもの(あの肛門に透明なシールをぺたぺた貼って剥がして提出するやつだ)を毎年やらされているから、皆無になったわけでもないのだろう。あんな気持ちの悪いものが体内にいると思うと自殺したくなるのは僕だけはないだはずだ。
「笑うカイチュウ」(藤田 紘一郎:講談社)がベストセラーになっていることからも解るように寄生虫というのは結構、注目を浴びている。National
Geographicの10月号でも寄生を取り上げている(金をけちって英語版しか買ってないのでちゃんと読めてない!)。一説ではアトピーとか花粉症のような自己免疫障害性のアレルギー(ってこんな言葉があるのかどうか知らないけれど)は本来、免疫系が攻撃すべき寄生虫がいなくなって攻撃相手が無いために自分を攻撃してしまうせいだという。あるいは、海外旅行で日本人だけコレラになっちゃうとかいうのも、免疫が弱くなっているせいがあるとか。つまり、寄生虫は無いほうがいいかもしれないけれど、完全にゼロだと問題があるようなものなのかもしれない。
実際問題として、人間はいろいろな生物と共生して生きているのは間違いない。大腸菌とかそうだし、赤血球のヘモグロビンとか、葉緑素なんてのは、もともと独立な生命体だったのが共生してできたらしいとか言われているし、ミトコンドリアなんかもそうなのだ。共生の発生メカニズムはまだよく解ってないらしいけど、寄生→共生と進む道があってもおかしくない。
最近の分子生物学の進歩は寄生→共生の仕組を徐々にあきらかにしつつあるらしい。アブラムシ(ゴキブリじゃなくて植物にたかる方)の一種はバクテリアを腸内に飼っていてそれなしでは生きられなくなっており、一方、バクテリアの方もアブラムシの体内でないと生きられない。こうなるともう、別個の生物だかなんだか怪しくなってきて、実際、分子系統学的に進化を再現しても、アブラムシとバクテリアの進化は完全に一致するらしい。つまり、バクテリアはアブラムシの体内で親から子へと受け継がれながら進化したらしいのだ。こうなるともう、殆ど単一の生命体まであと一歩である(+)。
これより程度が低くくてまだ、共生までいってない例ではある種のアリに寄生するバクテリアがあるらしいがこれなど、縮主であるアリに生殖障害を起こしてしまう。寄生するほうはもう、アリの体外では生きられなくなっているが、これがハチに見られるような未受精卵は必ず雄になる、という仕組を作った可能性もあるという。まあ、くわしく書くと長くなるのでやめておくが、こんな風に寄生と言っても縮主にとってマイナスばかりではないらしい。
寄生虫をどんどん排除しつつある人類は寄生→共生という大事な進化のパスを失いつつあるのかもしれない。だからといって寄生虫ダイエットみたいにわざわざカイチュウを飲み込むわけにもいかないだろう。寄生虫の排除もまた、ある意味で自然の摂理に反した人間の行動なのかもしれない。
(+)ここの一番下の部分。
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