僕達は常識的な世界に生きている。でっぱりがない垂直な壁を登ったりは出来ないし 、自分の身長の何倍も高いところから飛び下りたりも出来ない。自分の体重の何倍も あるような大きな石を持ち上げたりはできないし、何十メートルも時には何百メート ルも飛び上がったりすることはできない。そんなことはみな、テレビの中の空想上の ヒーロー達のすることであって、僕らには決して出来ないことだ。
ところが、日常茶飯事でこういうことが出来ることが普通であるような世界がこの地 球上にある。それは小さな虫達の世界だ。ハエはなんの足掛かりも無い壁をよじ登れ るし、アリは高いところから飛び下りたり、自分の体重の何倍もある重いものを軽々 と持ち上げて運ぶことが出来、バッタやノミは自分の体の長さの何十倍もの距離や高 さをジャンプできる。彼等にはどうしてこんなことができるのか?その秘密はまさに 、体の小ささにある。
2、3歳の乳児は体重が10キロちょっとしかないだろうが、平気で5、6キロの物 を持ち上げるだろう。大の大人でも自分の体重の半分、3〜40キロの重さの物を持 ち上げるのは結構大変だと思うが。かなり、高いところから落ちてもケガ一つしない 、なんてことは日常茶飯事。高いところにもすいすい登って行く。 生き物が力を出す仕組みは基本的に筋肉だが、力の大きさは筋肉の太さ(正確には断 面積)で決まっている。子供の体重は成人男性の5分の1くらいしか無いだろうが、 腕の太さが5分の1なんてことはありえない。むしろ、体に比べたら手足は太くて短 い。
体が小さいのは弱い重力の中で生きているのとの同じことだ。僕らが2、3歳の乳児 や小さな虫達の真似をしたいと思ったら、月の上など、重力の小さな星に行けばいい 。筋肉の力は同じままで、持ち上げなくてはいけない体の重さは軽くなるから、壁を 登ったり、重いものを持ち上げたり、高いところから飛び下りたり、身長の何倍も飛 び上がったり自由に出来る。
僕らは大人になるにしたがって、こんな夢の世界から追い出されて「常識」の世界へ と飲み込まれて行く。子供が大人よりおとぎ話を心から信じられるのは、彼等がそん な夢の世界に住んでいるからなのかも知れない。じゃあ、月で生まれてずっとそこで 成長したら、人間はずっと子供の心を失わずにいられるんだろうか?こればっかりは やってみないと解らない。