水は堅いか柔らかいか?こんな質問は愚問だと思うかも知れないが、実はそんなに簡 単な話では無い。夏、プールに飛び込みをする時、失敗して腹や背中を水面にひどく ぶつけてしまい、痛い思いをしたことがある人は多いだろう。水面はゆっくりとした 侵入には殆ど抵抗が無いが、高速の侵入に対しては固体の様にふるまって堅くなる。 小石を水面すれすれに投げると跳ね返される「水きり」という遊びもそのおかげだし 、10mの高さから水面に飛び降りるのとコンクリートの地面に飛び下りるのは大違 いだが、これが100mの高さとなると話は別で水面はコンクリートの様に堅くなり 飛び降りた人は死んでしまうだろう。
こんなことが起きる理由は簡単だ。水の様に全然形がないように見えるものでも、変 型するのには必ず有限の時間がかかる。バケツをひっくり返すとすぐにこぼれてしま うけれど、「すぐ」といってもある程度の時間はかかる。もし、1秒かかるとして、 この時間に比べてずっと短い時間、例えば、0.01秒くらいで何かが水面に衝突したと したらどうなるか?水面は変型する暇が無くてその「何か」は一瞬で減速し、止まっ てしまうだろう。そうなればその「何か」にとっては堅いものにぶつかったのと何の 違いも無いことになる。つまり、ポイントはスピードだ。どんなに柔らかいものでも 非常に速い速度で突っ込めば変型が追い付かなくて固体のようにぶつかったものを撥 ね返してしまう。
実際、この「柔らかいもの」は空気でもいい。ロケットが宇宙空間から大気圏に帰還 する速度はあまりに速いので、突入の仕方を間違えると、ロケットは水面を跳ねる小 石よろしく跳ね返されて宇宙の藻屑となってしまう。ロケットほどの速度になると、 空気さえ「固体」の様にふるまうのだ。
全然、逆の例もある。どんなに堅いものでも大きな力が非常に長い時間かかっている といつかは液体の様に曲がってしまう。その場合の速度は「一年で何センチ」とかい う速度かも知れないがとにかく、あたかも水の様に「流れて」しまう。実際、氷河と いうのは固体の氷がそうやって流れているものなのだ。
かくして、「堅さ」などというごく単純な概念さえ、絶対的で無いことが解る。我々 が普段感じている「堅さ」とは人間と言う種の時間スケールによっている。決して全 宇宙に普遍的な尺度なんかじゃ無いのだ。