回っているものは曲がりにくい、という話をしたけれど、じゃあ、カーブボールはどうなんだ?ということになったのが前回だった。野球に詳しくない君なんかは迷惑な話かもしれないが、まあ、我慢してくれ。空気があると話はあべこべになって、回転している球体はまっすぐに飛ばずにカーブするようになる。これを利用したのが野球のカーブである。ゴルフの打球がまっすぐに飛ばずに曲がってしまう「スライス」なんかも同じことだ。
回転しているボールが曲がる秘密は、飛んでいるボールの回りを流れる空気の流れのゆがみにある。例えば、真上から見て進行方向右回り(反時計回り)に回転しているボールが高速で飛んでいる時を考えよう。このボールの回りを通り過ぎる空気の流れを真上から見ると、ボールの進行方向「右側」を通過する空気の流れと、「左側」を通過する空気の流れは、同じではない。ボールの「右側」は空気の通り過ぎる方向と同じ方向に、「左側」は逆方向にボールが回転しているので、その影響で空気の流れはゆがんでしまう。その結果、ボールの左右の空気からボールにかかる力がつりあわなくなり、ボールは右か左に「流れる」ことになってしまう。結論から言えば「右回りのボールは右に、左回りのボールは左に」カーブすることになる。
ポイントはボールが回転していることではなく、空気の流れのゆがみである。ゆがみを引き起こす方法は回転だけではない。例えば、飛行機。飛行機の翼は上側が膨らんでいて、下側は比較的平らな形になっている。このおかげで、翼の上下を通り過ぎる空気の流れは同じではなくなってひずみが生じる。これが原因で翼には上下方向の力が加わるようになる。翼の形はこの力の向きが「上」になるように出来ている。これが飛行機を飛ばせる力「揚力」である。飛行機はけっしてエンジンの力で浮き上がっているわけではないのだ。
船が舵をきって曲がるのも同じこと。「舵」とは船尾に突き出した平らな板に他ならないが、これを左右に傾けることで水の流れにひずみを生じさせてそれで船を左右に曲げるのである。
かくして、カーブボールと飛行機の翼と船の舵はみな同じ「方則」を利用して作られていることがなんとなく解ったと思う。それじゃあ、空気があるところで、まっすぐ飛ぶボールを投げるにはどうするか?回転の無いボールは前回述べた理由で不安定(これはこれである種の変化球になるのだから、それはそれでいいのだが)。まっすぐに投げるにはボールを正面(バッター)から見たときにちょうど回転しているようにすればよろしい。これは前回述べた「弾丸」と同じ回転である。しかし、こうするには球をどう持てばいいのだろうか?僕にはちょっと解らない。